------------カフェオレ---------
「だって。こんな賞味期限切れじゃあ、客はいんないでしょ。」と店主は笑う。
「そりゃそうだけど、、、いや、ごめん、そうじゃなくて・・・。」
ボクが聞きたかったことはもっと特別なことだった。
特別、と言ったらこの店はそもそも「特別」だらけなのだが、
それをおいてもとにかく聞いてみたいのはあの娘のことだった。
「あの娘は一体なんなんです?」
あのときのボクと同じ質問をする客を何度か見かけたが、
店主の答えはいつもコーヒーの湯気のようなものだった。
店が店だっただけに来る客も酔狂な者が多くて、暴言が飛び交うことも
歌いだす客もあるというのに、踏み入ってはならない一線は誰もがわきまえていて
「それ以上」の答えを求めることは決してないのだった。
赤いタイルのカウンターに腰をもたせ掛け、今日も娘はボクを迎える。
振り向きざまに言う彼女の言葉に、ボクもあたりまえみたいに返事をする。
そしてカフェオレが飲みたくて来たようなフリをしながらそれが運ばれるのを待ってるんだ。
わかってる。
ボクはただ、この言葉が言いたかっただけだ。
今日一日誰にも差し出すことの出来なかったこの言葉を。
「こんにちは」と。