- -雪---
雪がみたい。
海に降る雪がみたい。
急行列車の窓でさよならを呟いたあの景色をもう一度みたい。
鉛の海が羽虫のような雪をとめどなく吸い込んでじっと息を殺している、
その景色をゆるいカーブで囲みながら私を乗せた列車は山の向こうの明るい世界へと走ってゆく。
幼い頃、冬はいつもこの寂寥感とともにあった。つんと冷えた空気とディーゼルの匂いと。
両親の郷里である山陰の海辺でたくさんのいとこたちと犬のように転がってお正月を過ごし
三が日を過ぎたらまた急行列車に乗っていつもの小さな世界へと戻るのだが、
駅を出てほどなく車窓一面の海を見ると決まって、こらえた哀しさがあふれ出るのだった。
でも、窓にへばりついてさよならを呟いても涙しなくなった頃には田舎への足は遠のき
今では老いた祖母も居なくなってしまって、もう誰もわたしを呼ぶ人はいないけれど
あの列車に乗って雪が見たいと思った、今。
https://sites.google.com/site/usaginomurmure/murmure/100107_001.mp3
(所要時間1分:37秒)