- ----------- 絶対領域 ----------------
だんだんと肌寒さは増し、「カフェオレが飲みたい」という言い訳も
近頃はもっともらしく聞こえるようになった。
ブルーのペンキ塗りが寒々しく思える北欧調の店先から中へ入ると、
暗がりにオレンジの白熱がカウンターの赤に跳ねて温かい。
娘はそのやわらかなハレーションを背に「こんにちは」と言う。
カフェオレを思わせる浅黒い肌は、もうすっかりコーヒーの香りに溶け込んでいる。
世の中に「絶対」なんてものはない。
そんなことがもうそろそろボクにもわかり始めている。
たった一つあるとしたらボクがいつか死ぬこと、そしたらカフェオレは飲めないことだ。
いや待て。
この不思議な娘がなにかSF的な仕掛けでもってボクを死と無縁の世界へ
連れ出してくれないという保証がどこにある?
絶対、なんてありはしないのだ。
カフェオレを運んだ娘が、いつものようにボクの横で空を見上げている。
カウンターに飛び乗り、タバコをふかしながら。
視界の隅に入って来る生暖かな生き物の微動を、
見るでもなく見ないでもなくボクはカフェオレを飲む。
「絶対」なんてありはしない、何かを勝手に思い込むのはもうやめにしないか?
絶対領域は、ほらこんなふうに、ボクのありふれた昼下がりに投げ出されている・・・。
(過去投稿の再掲ですが。ヒロさんに出ケツいや、出チクビ大サービスw)