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超短編のことを語る

リーリッルー短篇セレクション 第三回 

宵闇のガリレオ     by リーリッルー(id:lilliloo

 いつのまにかこの列車に乗っていた。産まれた時から乗っていたのかもしれない。ただ、気づかなかっただけで。
 うっすらと西日が差しこみ、けれど視野のほとんどは群青の宵闇に満たされている。列車の乗客はみな個人個人の時間をすごしていて、互いのそれが交わることはない。ゴーストのように半透明な乗客たちの時間が隣接したとき、ぽぅとほの白い灯りが生まれ、揺らめいては消えていく。
 車窓から眺める風景は嫌いだ。地平まで赤と黄のかざぐるまが埋まり、からからと回っている。時折ドレスの少女が現れて、スポットライトの中で歌を歌いだす。けれど音は空気を震わすことなく、私まで声は届かない。空を覆う青黒い闇が怖くって、だから私は進行方向に沈む西日をずっと眺めている。
 けれど列車はいつでも宵闇で、陽は沈むことも、昇ることもない。停車駅には辿りつかない。あのスポットライトの少女は夭逝した姉だったか、風に回るかざぐるまはあの縁日のお土産だったか。同じ時間の中で、いつも記憶から背をそむけている。

 陽は夜のうちに歩きだす。逃げだした灯りを探す旅にでる列車は、半球の夜を私たちを乗せて、西に沈む夕陽に向かって時速1674kmで逆走する。

(ハイク初出 2009/07/04 )