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花うさぎのことを語る

  • -------------  金魚  ---------------
  • 夏休みに入るかという日差しの下で、4年生の私は絵筆を握っていた。
    膝の上の画板に四角い紙があり、そのなかにはさらに四角い緑がある。
    ところどころにぼんやりと赤い斑点がなければ、羊羹にでもみえそうだ。

    そして、わたしは。
    わたしの前にあるものがコンクリ製の人工池であると、
    今、この様子を知る人間にしかこの四角の意味がわからないだろう――
    ということに、打ちひしがれていた。
    どれだけ緑のグラデーションに気を配ろうが、
    金魚の姿の「みえなさ」を如実に写し取ろうが、抹茶羊羹から一歩も出ないのだ。

    さんざん時間をかけて画用紙がもろもろになってしまった絵は、やはりさんざんな評価であった。
    そしてその池を一緒に囲んで描いていた子たちの絵の
    金魚が「金魚」であるさまに深い驚きを持った。
    あの子たちには金魚が、ほんとうにこのような「金魚」に見えたのだろうか。
    これが、人間の視覚的な認知についての一番古い「戸惑い」の記憶だ。

    茫洋とした赤いさかなの、ほのかさ。
    水苔の、雲海のようなさま。
    そういうものを描きたいと彼らは思わなかったのか。

    いまだに抹茶羊羹を目の前に置くと4年生の私が画板をもって覗き込んでいる。
    私は、こういうことについてはつくづく恨みがましい。
    別件が、片手ほどはある(笑)