- ------- 傘 -------------
傘が、美しいものだと思ったこともなく
つまり 実用性以外のことをかんがえて選ぶ習慣がなく
それは 貧しかったからというのが一番の理由に違いないんだけれど。
彼女が自分の傘を「綺麗だから好き」と言ったとき
私は自分の気持ちに驚いた。
私が美しいと思う彼女が美しいと言う傘。
傘のほかにも彼女の目はしょっちゅう美しいものを映し出すのだった。
そうして
「美しい」ということの支配に気づくと、
おおかたの人間は生きているのが辛くなる。
辛くなった。
ずいぶんと遅い気づきだったと思う。
でも、遅かったぶんだけ悩む月日も普通の少女より軽く済んだかもしれない。
いや、軽く済ませたつもりで、実際のところ何も済んではいないのかもしれないのだが。