- --------- 浪 ---------------
わたしが枝垂れる花、それも樹に咲く花が好きなのは
どこかしら狂気じみているせいだろうと思う。
桜しかり藤しかり、夏であれば百日紅(さるすべり)。
ではブーゲンビリアはどうかというとこれは違う。
インチキくさい色のせいじゃない。
しっかりと大地をかかえこむ根とそれゆえの不自由を持たぬ花に
狂気の匂いなどあるはずもない。
大阪の新興住宅地にはキョウチクトウばかりが憎らしいほど並んでいて
古い庭木が塀のむこうから覗くのを愛でる楽しみなどなかったが
神戸に来てさるすべりの紅い花をよくみるようになった。
一年でもっとも暑い百日に
なにかを吐き出すように咲くさるすべりの
花の終わりにわたしの鎮魂歌も遠ざかる。
その花の縮れた線が密集するさまに
砂浜を駆け上がる無数の浪を想う夏が
ようやく終わるのだ。