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花うさぎのことを語る

『夢のように、おりてくるもの』小咄「手紙」 2-1




  あの日、おれはあなたたちふたり、つまり甥と叔父の歓談を聞く親しい「友人」とその「部下」の役に徹した。徹しようとした。そしてあのひとが、幾度となく あなたの肩に手をおくのを黙って眺めた。その指がふと、あなたの長い髪に触れるのも盗み見た。それでいながら、あのひとの視線がおれの頬をかすめるのに気づいても杯を干しあげて知らぬ顔をした。あなたはおれの不機嫌を訝しみつつそれをどう宥めたらいいのかわからず、居心地の悪そうな顔つきでそれとなく何度もおれをうかがったが、その場でも家に帰ってからも、言葉に出して責めたり詰ったりはしなかった。
 おれがほとんど勢いに任せてそのことを尋ねると、あなたは静かなひとみのまま「理由」があるんだろうと思ったからと呟いた。口を噤んで立ち尽くしたおれ の横であなたは酔い覚ましの水を煽って、なんでもないようにつけたした。あのひとと同じ組織に属し、かつその上司で、しかも俺よりも長い付き合いなのだろう、と。
 当たり前の言葉をあたりまえに告げられて、おれはあなたが「大人」だと思い知らされた。いや、依頼人と交渉をする「夢使い」なのだとはっきりと理解させられたような気がした。あなたにそのつもりなど微塵もなかっただろうに、おれはそのときの自分をひそかに恥じた。まだ学生だった。そう言い訳したくなるほどの愚かさを。または、あの場での不機嫌だけでなく、あなたにそんなことを言わせてしまった「甘え」を、歯噛みするほど悔やみもした。