- ------ かんな ---------
過去好きになった異性について話すよりも同性のほうがずっと胸苦しい。
単純に「禁忌」の領分にあるからなのだろう。
かんなは十月と書く。
「十月に生まれたからかんな!」とわたしより頭一つ分高い場所から見下ろしながらメンドクサそうに言う。
美しい鼻筋と薄い色の眼球に見とれ、わたしは生返事をした。
シャギーショートは当時斬新だった。
流行に疎いわたしは「素敵だなあ、あれは散髪屋さんになんと説明すればいいんだろう」と眺めまわしていたが
その2、3年あとに今でいうビジュアル系パンクロックグループが世を席巻するとたちまちポピュラーになった。
かんなは禁止されているライン入り靴下とマーク入りのバスケットシューズをはいてくる。
それらは長く締まった脚によく似合っていた。
似合ってるんだからいいじゃないか、と思うが風紀委員のわたしはダメ出しせねばならない。
「あー、また違反ですねえ。一応注意はしときますよ!」と言う。
「けっ」という顔をされる。
グループが違ったから、悲しいことにかんなとの接点はほとんどこれだったw
まさかわたしに好かれていたとは思いもしないだろうが、生真面目なおかっぱ頭のだっさい風紀委員をたまには思い出してくれていたら嬉しいなと思う。
でないと、夏の盛りにカンナの花を見ては思い出し、十月を迎えては思い出すわたしが浮かばれない。
さて、当時はバレーボール漬けになっていたが、その前はよく絵を描いていて、いわさきちひろがお気に入りだった。
何度も何度もちひろの描く少女をトレースした。
あのころのわたしは少女のやわらかさ、みずみずしさを何のこだわりもなく美しいと思い、描くことができた。
大人になってあんな気持ちではもう描くことができないほど「こじらせ」てしまっているのだけれど、その出口を探しながらこれからまた描いてみようと思う。
治るものであり、治すべきものであり、こじらせた本人にも多少責があるのであり、その主たる原因はなかなかはっきりとはしないものであり・・・・・・と暗に示すような、まるで風邪の罹患のような表現にしっかりと抵抗をし続けながら.。