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絵のある喫茶店(雑談場)のことを語る

  • ----------- ジャーマンアイリス --------------
  • いずれ菖蒲か杜若っていうけれど、それよりワンランク上の美女がジャーマンアイリスだ。
    というのはうちの母のオリジナルな花カーストである。
    母には花にそれぞれ思いがあり、名を呼ぶときは声色にそれを込めた。

    「これ、なんていうの」
    「ジャーマンアイリス」

    そんだけだ。
    でもその8つの音で、母はそれがどこか遠い国の貴婦人の名でそこらの平凡な花とは違うものであると思わせた。

    さて、母は日舞とお茶とお花を嗜んでおり、子育てが一段落してからは俳画をやっている。
    と聞けばさぞ繊細なひとと思うだろうが違う、反対である。
    絵なら花より目刺しを描くほうがずっとうまい。
    踊りなら藤娘より黒田節のほうがうまい気がするw

    しかし母は今もやはり花の絵を描く。
    その姿を見ていると何十年その道に励んでも、自分のことは見えないものなのだなと思う。
    それが見えたならもっと早くに「よぶん」を捨てることができ、「平凡」から「非凡」に到達できたかもしれない。
    それが見えることこそが才能なのかもしれない。

    同じ轍を踏まないと思いながら毎日絵を描いている。
    同じ轍しかないと気付きながら毎日絵を描いている。