- ------- 熟れる ---------
六月になると急にフルーツを載せたケーキ類が輝きだす。
うちでは洋梨のタルトを息子が好むのだが、それは亡くなった実父が好きだった果物だ。
この二人は食の好みだけでなく何かとよく似ている。隔世遺伝というやつだ。
昔は洋梨なんてあまり出回っていなかったから、たまにいただくと父と母のささやかな攻防が始まった。
父は果物全般において、まだ固く歯触りのあるうちに食べたい。母はよく熟したものが好きだ。
それは柿ならいざ知らず、珍しい洋梨であるがゆえに起こる問題だった。
「新聞紙に包んで置いておくんですってよ」と母がいい、仏さんにあげるのを父は胡坐を組んで嬉しそうにしている。
3日ほどもたつと父が「どうや、そろそろちゃうか」
母が「まだでしょ」
これを繰り返すのである。
母はもしや意地悪していたのかもしれない。
一度は切ると芯の部分が痛んでしまっていた。
そのときの父の大人げない詰りっぷりは「意地悪」に対しての報復としか考えられないレベルだったw
こんな父でも「若草物語のお母さんみたいな女性」だとわたしには母を誉めてみせたし、実際ホレたのは父の方だろう。面食いなのだ。
「しっかりした美人」が好きな息子が将来どんな人と出会ってどんな会話をするんだろう。
「そろそろちゃうか」
「まだでしょ」
を繰り返していたら苦笑いしてしまうだろうな。
今のところ男にばかりモテているのだがw