忘れてほしいの
自分がウェブでフォローするタイプのひとには床屋嫌いが多い。
むろん自分がそうだから気持ちはとてもわかる。
それは「なんで金を払ってまで社交をせねばならんのだ」に尽きる。
わたしは週刊誌を手に取らないから芸能沙汰に興味がないのは向こうもわかっている。となると家族の話(子供も同じ店なので)になるわけだが、わたしはそれが好きではない。そんなもんが好きならママ友ってやつが切れずにアツーく続くはずなのだw
というわけで床屋にはかならず本を持参する。先日もそうした。
「アニメーション 折にふれて」 高畑勲
軽いエッセイで字が大きいから床屋向きだ。
ところが、椅子に掛けて読み始め10分ほどもしたところで下腹部に違和感が来た。
いかん。
なんだろう・・・・・・アレかそれともアレかとさっき食べた昼食を脳内チェックしつつ本を閉じ傍に置く。
いやな汗が出てくるが、お兄さんは毛染めの薬を塗り始めたばかりだ。
けわしい顔になりそうなのをこらえながら鏡に向かっていると、いつもなら黙って手を動かすお兄さんが話しかける。
「あ、それアレですね。ジブリの!」
「あ ああ そうです。宮崎さんじゃないほう」
「ああ~ 知ってます。へええ いろんな本読むんですねえ」
彼はわたしがその本を退屈で寝そうになって閉じたと思ったにちがいない。世間話をはじめた。
毛染め剤の強烈なにおいと痒み、襲い来る腸管の痙攣に耐えながらにこやかに世間話に相槌を打つ10分間は地獄だった。
わたしは便所なんてものは臭くてよい、いまどきのトイレは過剰すぎて気持ち悪いと思ってる。
でもその性能には感服する。特にこういう場合、である。
床屋のあるビルは築数十年のもので、しかも芳香剤だの瞬間匂い消しスプレーだの置かれているのが全部キレていた。
次に行くのは一月半先だ。