飛び散る黒斑が、そう呼ばしめるんだろう。台風の影響か京都岩倉も異様な蒸し暑さだったが、それをものともせず行く者に襲いかかるように咲く。鬼は「へえ、磐座を見にいくのかい。そりゃめずらしい」と鼻で笑って冷やかした。傍から見れば鬼は私のほうだ。いや、実際に鬼は人間の私である。
岩倉で磐座のある山住神社を訪ねたあと、床紅葉で有名な実相院へ。庭と襖絵をゆっくり見て門を出てくるともう夕暮れていた。敷地の隅の紅色に目が行く。百日紅(さるすべり)の大木。
(イラストは去年の手製本『泣草図譜 やまばと編』冒頭)