梓と卓也は山中で道に迷ってしまう。日が暮れかけた頃、雰囲気たっぷりの、しかし手入れがされた古民家が、突然二人の目の前に現れた。
呼び鈴の類は見当たらない。玄関と思われる引き戸の外から「ごめんください」と呼びかけるが返事はない。二人は思い切って引き戸を開け、中に入る。暗い屋内に向かって再度「ごめんください」と呼びかけるが、やはり返事はない。
そのとき、後ろで音もなく扉が閉まった。障子なので、夕暮れの残照は屋内に入ってくるのだが、明らかにその光量が減ったのに気づき、二人は振り返った。
引き戸が勝手に閉まるなんてことがあるだろうか。
「・・・」
卓也は驚いて声も出ない。
梓にいたっては
「うわあ」
思わず声を上げてしまう。
「自動ドアだなんて、便利ねえ」
超短編のことを語る