南、西、北の三方に窓がある二階の自室。南の窓に何かが当たる鈍い音に気づいて外を覗くと、建物の敷地内駐車場から野球ボール大の球を投げ上げる若い女がいた。白いワンピースに黒い長髪。顔は明るく笑っており、私はそこに狂気を感じる。跳ね返り落ちるボールを拾ってはまた投げ上げる。女は私のことを知っていて、こちらに呼びかける言葉(表情と同じく明るいが、呪詛にもとれる)を発しているようだが、心当たりはない。呼びかけ。どすん。呼びかけ。どすん。
私は大きな声で「やめないと警察を呼ぶぞ」と警告。女は「どうぞ」といった言葉を返し、ボールを投げ続ける。携帯電話機の通話ボタンを押すと、番号を入力する前に相手が出るが、混線したような状態でまともに会話できない。自室北側の玄関扉に施錠していなかったことを思い出し、扉に向かいつつ、混線気味だった電話に「不審な女がいるので対処してほしい」と告げると、「うふふ、じゃあ行きますね」という若い女の声が返ってくる。場所も知らせていないのに。扉に施錠。
ボールの音が止む。自室の西側には駐車場から二階に上がる階段がある。階段を駆け上がる足音。西側の窓は不透明ガラスだが、白いワンピース女の姿が横切るのがぼんやりと見える。
扉の施錠が間に合って助かったと思ったが詰めが甘く、施錠していなかった北側の窓から女が半身をねじ込んできた。「入ったらKOROSU」といった警告を勇ましく発するつもりが、恐怖のためか呂律が怪しい。
ここで覚醒。口の中は乾燥気味でねばついている。寝床のすぐ脇のガラス戸は南側の駐車場に面していて、いつも換気のために少し開けているんだが、閉めて施錠した。