目の前に着席しているおそらく80がらみのじいさまが膝に載せたリュックサックから取り出した手帳は、間に挟んだ3本のペンで分厚く膨らんでいた。否、分厚いのはペンのせいだけではない。ピンク、青、黃の三色の蛍光ペンで彩られ、赤青黒ボールペンで書き込まれた紙面は、過去分は恐ろしい密度で埋まり、未来分もおよそ半分の紙面にはすでに書き込みがなされている。そこここに修正液が使われ、いま眼前で繰り広げられているように何度もめくったせいか、あるいは水をかぶって乾かしたのか、小口は黒光りしてめくれ上がっている。過去の手帳かと疑いもしたが、ヘッダ部分には確かに2017年とあった。じいさまは来週のページに何かの予定を追記した。
電車内にてのことを語る