○リの洗礼
縁あってフランスの首都で取引先の仕事を手伝うことになって2日目のわたくしですが、主力部隊(とはいえこちらも取引先の本体ではなく、複数の個人や組織で構成されている)の拠点から10分ほど離れた場所のホテルに泊まっております。
本日の始業時刻がわからなかったので、前日の始業時刻の30分前に主力の泊まるホテルへ。ホテル前で煙草を吸っていた主力の人たちと居合わせたので、始業時刻を聞くと昨日より1時間遅く始まるとのこと。昨日はほとんど時間がなかったので、互いの所属などを話し、あらためて自己紹介。外は寒いし時間があるので、ホテル内で待ちますかと提案されたが、まだ1時間以上あるのでせっかくだから散歩に行きますとその場を離れる。まだ日は昇らない。街灯の灯りに照らされる道行く人のはく息は白い。
少し歩いたところで写真を撮っていたら、自分よりも小柄な、黒髪だがアジア人ではない男が、スマートフォーンを手に喋りながら近づいてきた。英語ではなかったが、フランス語か、その他のヨーロッパ言語かわからない。画面にはグーグルマップス。おそらく道を聞きたがっている。
自分は平日朝からリュックを背負っているし、近隣ではあまり見かけないアジア人だ。なぜ道を聞こうとする(たぶん)のか。ハハーン、道を尋ねるふりをしてスリを働くつもりか。しかし、私は大切なものは小手先では取り出せないように携帯しているから心配無用。「アイドントノー」と言ってやると、男は少し驚いたような表情を見せて、すまんすまんというような雰囲気のことばを発し、続けてたぶん英語で「どっからきたの」と言ったように聞こえた刹那、右肩から右足にかけて、背中側に冷たい液体がかかった。
男の仲間か、さっきこの寒いのに歩道に散水して清掃していた車が帰ってきたのか。どちらにしても、ここで男から視線を外してはならない。努めて落ち着いたふりをしていたら、男が私の足を指さして「オーノー」といった感じでまくしたてる。足を見ると、鳥のフンがたらり。視線を上にずらしていくと肩口から断続している。
男は「たいへんだ、拭いてやるからこれ使え(と言ってどこからかトイレットペーパーを取り出す)、荷物にもついているから降ろしてここに置け、上着についているから脱げというようなことを身振り手振りで繰り返すが、「構うな」と繰り返すわたくし。
根負けして警戒しつつ路上に荷物を置くと、トイレットペーパーでふいてくれる。それでも拒絶するわたくしの態度を見て、じゃあこれあげるとトイレットペーパーをよこし、ごめんねーという感じのことばを発しながら立ち去っていった。
パリの洗礼をトリから受けた話でした