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虚ろな王座 - 崇峻天皇は死んだ - カクヨム https://kakuyomu.jp/works/1177354054886612530/episodes/1177354054888439444
泊瀬部王(崇峻天皇)が即位するが、実権は炊屋姫と蘇我馬子が握り、王は倉梯の宮に隔離されます。長い前振りが終わり、ここからが本題。
今回の書き出し。
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七月、穴穂部王子と物部守屋大連を討った紛争が終わると、橘王の遺骸は埋葬された。葬礼は略式に済まされた。王座は、四月からまだ空位のままだった。
八月二日、泊瀬部王子は、炊屋姫尊の名で倉梯の宮に呼び出された。倉梯という土地は、倭の国の南東部、平野から山すそに入り込み、多武の嶺のふもと、尾根の入り組んだ合間に在る。ここは王室の保養地でもあった。泊瀬部の幼い頃は、夏ごとに遊びに来ていた。その時は、父の広庭王と、多くの妃や兄弟たちが一緒だった。記憶をたぐってみれば、たしか父には、六人の妃との間に、十六男九女の子があったはずだ。最も親しい兄だった穴穂部王子もそこにいた。
今は仲秋の倉梯の宮に、想い出の夏の賑わいはなく、どこか物憂げな影が差している。案内されるままに奥の間に入ると、かつて父が座っていた所には、腹違いの姉、太后という立場でもある人が構えている。
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