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勝手に引用のことを語る

『同じ時のなかで』 スーザン・ソンタグ 著
http://www.nttpub.co.jp/search/books/detail/100001997#
言葉たちの良心――エルサレム賞受賞スピーチ
 
「私たち作家は、言葉に心を砕く。言葉は意味をもち、言葉は指し示す。言葉は矢である。現実を覆う肌理の粗い皮膜に突き刺さった矢だ」
「作家の第一の責務は、意見をもつことではなく、真実を語ること……、そして嘘や誤った情報の共犯者になるのを拒絶することだ。文学は、単純化された声に対抗するニュアンスと矛盾の住処である。作家の職務は、精神を荒廃させる人やものごとを人々が容易に信じてしまう、その傾向を阻止すること、妄信を起こさせないことだ。作家の職務は、多くの異なる主張、地域、経験が詰め込まれた世界を、ありのままに見る眼を育てることだ」
「さまざまな現実を描写すること、それも作家の仕事だ。汚れた現実、歓喜の現実。文学(文学の功績という多元的なもの)が供する叡智の精髄は、何が起きていようと、つねに、それ以外にも起きていることがある、という認識を助けることだ」
「私自身の見解は、もし真実と正義のどちらかを選ばざるをえないとしたら――もちろん、片方だけ選ぶのは本意ではないが――真実を選ぶ」
「私たちがもっとも大切にしているもろもろの価値観のなかには、矛盾も、ときには緩和しえない対立もありうる、ということを想起させること(「悲劇」とは、まさにこのことを指す)。文学は、「これもまた」とか「ほかにも」といった別の存在に気づかせる仕事だ」
「文学の叡智は、意見をもつこととはまさに正反対の位置にある」
「作家以外の人々、有名人や政治家が偉そうに話しているのは、話させておけばよい。嘘八百だ。では作家が、同時に公の声としても語った場合、何かましなことがあるだろうか。それは、意見や判断を組み立てることが、みずからの至難の責務であることを、作家たちならば肝に銘じている点だろう。
 意見にまつわるもうひとつの問題。自説に凝り固まるきらいがある点だ。作家がすべきことは、人を自由に放つこと、揺さぶることだ。共感と新しい関心事へと向かって道を開くことだ。もしかしたら、そう、もしかしたらでかまわない、今とは違うもの、より良いものになれるかもしれないと、希望をもたせること。人は変われる、と気づかせることだ」