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小説のことを語る

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 翌朝、頼みがある、と広光が頭をさげた。
 なんだいあらたまって、とたずねると、ホテルを出て自分の友人の家にいてくれと言われた。
 歌仙は眉を寄せたが、けっきょくはうなずいた。
 燭台切光忠という背の高い美丈夫の家に連れていかれた。家というよりそこはアトリエで、立体の作家だった。

 光忠は歌仙をみて、モデルになってもらいたいくらい美形だねえと目を細めると、気安く声をかけるなと広光が苦い声をあげた。それから、光忠、俺が帰るまでそいつを絶対に独りにさせるな。俺はとりあえず大学に行くと言って出ていった。
 昨夜のうちに大学をやめるのはしばらく考えろと説得していた。
 くりちゃんがひとを連れてきたのは初めてだ、長谷部くんは心配で押しかけて来たことがあるけれどねと微笑んだ。
黙っていれば眼帯をした迫力のある美形なのを自身がよく知っているのだろう。それを和らげるように口調も表情も甘い。
 留年していたころに出会ったと説明した。家出して、年上のきれいなお姐さんたちのところを渡り歩いて、大人びてるからまさか高校生だと思われなかったみたいだよ、と。
 なるほど、と歌仙はティーカップに口をつけて昨晩を思い出した。翻弄されても致し方なかったのかもしれない。刺青のある肢体に組み敷かれるのはやけに刺激的だった。

 長谷部くん、心中複雑だろうね。

 光忠のことばに歌仙はなにも返さなかった。流されたのだと広光自身がおもっているのも知っていた。
 歌仙は、原稿を書かないと、と関係ないことを呟いた。それが何よりも「流された」結果としての本音だったかもしれない。