海に面した曇天の雪原に、四方ガラス張りの家が肩まで雪に埋もれてぽつんと建っている。
「北国にガラス張りの家を建てるなんて何を考えているんだろう」
と思いながら見ていると、天井付近からワイヤーで吊したロールスクリーンが肩下から足下までするすると下ろされる。天井付近は採光のためなのか素通しのまま。
ああ、これはこうちさんの家だ、カーテンを自動で降ろすことにして正解だったとはいくに書いていたな。
空中を漂いながらガラスのそばまで行って中を覗いてみると、ふっと内側に入れた。
カーペットを敷いた廊下に立って外を眺めて見ると、川辺で雪釣りをしていたこうちさんダーリンが戻ってくるところだった。目が合う。誰かが家の中にいる、という不信感いっぱいの顔になって向かってくる。困ったぞ。
振り返ると階段を上がってきたこうちさんに気付く。おお、こうちさん! はてこは怪しいものじゃなく、ハイカーだってご主人に紹介してください! こうちさん、そんなお顔でそんなスタイルだったかしら? こうちさんは「あら、」という顔でこちらを見ている。珍しい人が来たわ。
「こうちさん」はその後ご主人にわたしを紹介してくれたけれど、最近ややセンチメンタルらしく、改造した納屋の藁の中に裸で潜り込んでふて寝したりしていた。冷たく白くやわらかい身体で悲しげな顔をして家の中をふらふらしている。愛の迷い子って感じ。
「こうちさん」の家は近所にドライブへ行くように、家ごと飛行艇になってそのまま空を飛んで旅に出られる仕様だった。色とりどりに塗られたドイツのお伽噺のような家並みを眺めながら、「こうちさん」とご主人のお友だちと一緒に旅をする。「ここはどこですか」「岩手よ」岩手すごいな、長崎オランダ村みたいだ。いつの間に?
「こうちさん、今日はてこがここに来たこと、ハイクに書いてください。こんな不思議なことが出来たなんて自分でも信じられません」
「えー、いや」
「なんで!」
「だって自分のこと知られたくないもの」
「そんなー」
こうちさんがこの話をポストしてくれないのはそういうわけだと思う。