そこで目が覚めた。
胸に手を当ててしばらくじっとしていた。本当に怖かった。久しぶりに夢で怖い思いをした。真っ黒くて残酷で、ゾッとするような嫌な怖さだった。
部屋は明るく、先に起きた夫は機嫌がよかった。
でも追いかけられて家にたどり着いたときのように落ち着かず、しばらく話が出来なかった。
「怖い夢見た・・・」
「はー、そらやな思いしたねえ」
あいつめ。あの山伏め。ちくしょう。くやしい。
いつまでも怖いのがシャクで心の中で毒づいてみるが、闘争心や怒りが今ひとつ沸いてこない。
あれは何なの。何しにきたの。なんで捕まえたいの。
あいつって、昨日仁王立ちしてた、あれ?
わたしは本当に母の土地を、気の毒な精霊が集まるアイヌやインディアンの聖地のように感じていたので、自分で自分に驚いた。嫌な感じがする土地というのはあるけれど、母の土地は近寄りがたくも清々しいところだった。
でも夢の中の男は本当に禍々しく、忌まわしい術に長けたいらんことしいな雰囲気だった。昨日あれだけ同情して擁護したのに、夢で手の平を返すのか。
「あの土地のだ」
夢の話をするとすぐ夫が言った。
「なんで?実はわたしもそう思ったんだけど」
「なんでかわからないけど、俺も話聞いてすぐそう思った」