夢の中でわたしは、古い標本や剥製を置いている田舎の学校のようなところにいた。
部屋の一角に実物大の熊を展示するような、大きなガラスケースがあった。
壁と繋がったそのガラスケースに、生きている山伏が入って来た。
山伏は修行を積んだ偉い人らしく、ケースのまわりに次々人が集まる。
「わあ・・・」「すごい!」「こっちこっち!」
山伏は赤ら顔で禿げている。そして両手が握り拳のまま潰れ、そこがケロイドになっていた。
しばらく人々に姿を見せると、山伏は反対側の壁を開けて部屋に出てきた。
山伏は事務室か何かに用事があるのか奥の廊下へ消え、一部の人々が後を追った。
気が付くと山伏が正面に、互いに手を伸ばして届かないくらいの距離にいた。
不敵な笑いを浮かべている。なんだか嫌な感じがする。単調な太鼓の音が響く。
ダラダラダラダラダ ッタン ダラダラダラダラダ ッタン
山伏が何を言ったのか、目が覚めてしばらく経つと忘れてしまった。
何気ない、でも不自然で違和感のある言葉だった。
わたしを囲むように人々が立っている。扇形に囲まれながらわたしは困惑していた。
この人はわたしを術にかけようとしている。かかると確信がある。
本当ならさっきすでにかかるはずだった。でもなぜかかからなかった。
単調な太鼓の音が続いている。太鼓なのに短調に聞こえるのはなぜだろう。
何か話さないとやばい。
怒るか逃げるかすればいいのに、わたしはなぜか全力でとぼけようとしていた。
背後の人達の顔が見られない。もしかしてみんなもう術にかかっているのかな。
「さっきから歩くと太鼓の音がするよね、いまは録音したものを持ち歩けばいいけど、昔はどうやってその音を鳴らしたの?」
山伏は瞬きもせず笑みを浮かべたまま迫ってくる。こいつは悪い奴だ。邪悪な奴だ。