5、6年前に、田舎に家を建てたがっていた母が、ずいぶん探し回った末に土地を買った。
当時横浜に住んでいたのに場所は福岡だった。近隣に知り合いは誰もいない。
「田舎に住みたいっち言い寄ったくせに、町に近いなんもないとこに買うた」
と、案内した弟は首を傾げていた。
母は長年熱く田舎く暮らしと自給自足について語っていたが、母の言うことと本音はしばしば乖離しているので、隠された動機があるのだろうとみな思っていた。
母は家を建てたらさっさとリタイヤして、長年夢だったあれこれに着手すると豪語していたけれど、事態はさっぱり進展しなかった。
母は家の材質や建て方に、予算からしたら考えられないような条件をつけていたからだ。
わたしは「本当は家を建てるのが怖いんじゃないか」と思っていた。
口では恋人を欲しがるけれど、いざとなると縁談を潰す人みたいに。
それでも母は休みになると首都圏から足繁く福岡まで通っていた。
何人もの大工や建築士にも会い、固定資産税を払い、草取りを依頼して、その土地にはずいぶんお金を使っていた。
「家を建てたら使うの」
と言って用意したものもだいぶ増えてきた。意地になっているのかと思った。
去年母はわたしたちを追うように福岡へ越してきた。
そして土地から30分ほどの場所に部屋を借りて住み始めた。
いよいよ家を建てるのかと思っていたが、やはり話は進まない。
母は予算と条件に見合う話がないのだと言うけれど、話を聞くと
「そこまで言うのはもはや言いがかりなんじゃないか」
と思える話もあった。その土地に先日行ってきた。