id:kutabirehateko
のことを語る

高台の宗教施設に集まっている人の波に紛れていたら、向こうから高波がやってきて透明なゼリーのように辺りを飲み込んだ。
これが高波を再現したアトラクションなのか、本物の波なのかわからなくて、わたしは手元のパソコンが濡れてダメになっていないかを確かめた。パソコンは濡れて動かなくなっている。がっかりして顔を上げると、そこは自分の部屋だった。見たことのない場所なのに自分の部屋だと分かる。
ベッドの足元にフードを目深にかぶった焦げ茶色の髪をした白人男性が立っていて「おまえは死んだので、行かなければいけない」と英語で言う。男が立っている場所に写真の日付けのように赤いデジタルランプで日時を示す数字が出ている。あの高波はわたしの部屋を飲み込み、わたしは部屋に閉じ込められれ一人でここで死んだのだ。いまそのことにやっと気づいたのだった。
わたしは家族や友人を思い出し、男に「状況を把握する時間がほしい、心の準備をさせてほしい」と懇願したが、男は首を振ってわたしを急かす。もう行かなければならない。出発を先延ばしにしても何にもならない。
部屋は乱れた様子がないが、一度海水に浸かったあとがあり、薄汚れて湿っている。振り返るとキルトのベッドカバーの下にふくらみが見える。あれが自分の遺体なのだろうと思う。死んだらもう誰にも別れを告げることが出来ない。何一つ伝えることが出来ない。わたしの体はもう使えないのだから。
わたしは泣きながら男について部屋を出た。体がないのだから歩かなくてもいいのか、飛んでいけるのか、いま見えている人たちも亡くなった人なのかといろいろ男に尋ねるが、英語が上手く出てこない。そもそも言葉で話す必要はないのではないか、テレパシーのようなもので通じるのではないか、と考え始めたところで目が覚めた。