妻が隣で泣きながらスマホをトントンしているので、トロンとした半開きの目のまま驚いて、グラグラする腕で身体を支えて起き上がり、腕の中の妻の顔を半目でのぞき込む。
「もっちゃんを危ない目に遭わせてはてこは悔しいんだよ」
泣きじゃくる妻を必死でなだめようと言葉にならない息を吐く。
わたしはもちおがやせ細ってしまって
桂歌丸から飢餓難民みたいになり
三白眼でテリー伊藤みたいに焦点があわなくなり
ホラー映画の怪物みたいなぎこちない動きをするようになって
その姿があまりに強烈で
いつか元気だったもちおを忘れてしまうんじゃないかと不安だった
でもいまはこのホラー映画仕様のもちおのことも、誰より好きだ
もちおはあらゆる手をつくして
隙あらばわたしに愛を伝える
祖父はせん妄の中で
「困ったことがあったらおじいちゃんに言いなはいよ」
といった。
もちおは「はてこさん、ここにおって。はてこさん、愛してる。はてこさん、ごめんな。しあわせになってな。はてこさんはかわいい。俺はしあわせやった」と何度もいう。
何度も何度も何度もいう。