「訪問者」
「今日はお昼前にかわいいお客さんが来ますよ。」
朝の健康チェックに来た看護士が帰り際に言う。
「1階の保育園の子供たちがハロウィンの仮装して訪ねてくるんです。お菓子をあげてくださいね。」
老人ホーム、通所介護施設に保育園が同居するこの建物は、こうした催し物が多い。老女は手すりにつかまって玄関まで看護士を送るとテーブルに戻り、おなかがカゴになった折り鶴にお菓子を詰めはじめた。
弱々しいノックが聴こえた。玄関に10歳くらいの痩せた男の子が立っている。開襟シャツも半ズボンもすり切れて、片足だけ履いた下駄は泥だらけだ。老女はお菓子を詰めた折り鶴を横へ置いたまま、椅子の背につかまりながら台所へ消えた。
しばらくして老女は、大きめの塩むすびを三つ、手ぬぐいに包んで戻ってきた。男の子は手渡された包みの温かさと重さに呆然としていたが、やがて音をたててツバを飲み込むと、その音で我にかえったように深々とお辞儀をして部屋を出て行った。
奥のふすまが開き、老人が現れた。昼食の皿に塩むすびを見つけると「ほぉ…」と声をもらした。「あなたは三人兄弟でしたよねぇ」汁のお椀を老人の前にすすめて老婆が聞く。老人は目もあげずに、ただ二回うなずいた。
「なら、よかったわ。それなら足りましたねぇ」
ハロウィン超短編まつり(>w<)2010のことを語る