私=綾瀬はるかで再生してください。貴女でも構いません。
街中を4歳くらいの娘の手を引いて歩いていました。娘が歌っているのか、商店街のスピーカーから流れてくるのか、「パンダが家に帰ってくる」という内容の歌が聴こえていました。
通りの向こうに歌詞の通りに角を曲がって消えていく人影に気がつきました。私ははっとして、娘の手を引きつつ足を速めて、人影を追いかけました。
人影は歌のままに私の家に向かって角を曲がっていき、やがてマンションの中に入っていきました。私は突然、次の角を曲がっても、もう姿は見えないのではないかという不安に駆られ、走り出しました。
玄関前の廊下に人影はなく、私は自宅に駆け込みました。居間に人の話し声がしてドアを開けると、尚乃助さまがソファに腰掛けて、私の父に帰国の挨拶をしていました。
私は駆け寄ってしがみつきました。とにかく力いっぱいしがみついて、他に何もできませんでした。胸が潰れる思いでした。
しがみついた尚乃助さまの肩は細い黒い縞の入った、深みと少し甘さの感じられる光沢のある茶色のスーツに包まれていました。