@dai6tenmaoo
勝手に引用のことを語る

東大の女子学生からはこんな話を聞きました。「キミ、どこの大学?」と訊かれたら、
「東京、の、大学...」と答えるのだそうです。なぜかといえば「東大」といえば、ひかれるから、だそうです。
なぜ男子学生は東大生であることに誇りが持てるのに、女子学生は答えに躊躇するのでしょうか。
なぜなら、男性の価値と成績のよさは一致しているのに、女性の価値と成績のよさとのあいだには、ねじれがあるからです。
女子は子どものときから「かわいい」ことを期待されます。ところで「かわいい」とはどんな価値でしょうか?
愛される、選ばれる、守ってもらえる価値には、相手を絶対におびやかさないという保証が含まれています。
だから女子は、自分が成績がいいことや、東大生であることを隠そうとするのです。
東大工学部と大学院の男子学生5人が、私大の女子学生を集団で性的に凌辱した事件がありました。
加害者の男子学生は3人が退学、2人が停学処分を受けました。
この事件をモデルにして姫野カオルコさんという作家が『彼女は頭が悪いから』という小説を書き、昨年それをテーマに学内でシンポジウムが開かれました。
「彼女は頭が悪いから」というのは、取り調べの過程で、実際に加害者の男子学生が口にしたコトバだそうです。
この作品を読めば、東大の男子学生が社会からどんな目で見られているかがわかります。
東大には今でも東大女子が実質的に入れず、他大学の女子のみに参加を認める男子サークルがあると聞きました。
わたしが学生だった半世紀前にも同じようなサークルがありました。それが半世紀後の今日も続いているとは驚きです。
この3月に東京大学男女共同参画担当理事・副学長名で、女子学生排除は「東大憲章」が唱える平等の理念に反すると警告を発しました。
これまであなたたちが過ごしてきた学校は、タテマエ平等の社会でした。偏差値競争に男女別はありません。
ですが、大学に入る時点ですでに隠れた性差別が始まっています。社会に出れば、もっとあからさまな性差別が横行しています。
東京大学もまた、残念ながらその例のひとつです。
学部においておよそ20%の女子学生比率は、大学院になると修士課程で25%、博士課程で30.7%になります。
その先、研究職となると、助教の女性比率は18.2、准教授で11.6、教授職で7.8%と低下します。これは国会議員の女性比率より低い数字です。
女性学部長・研究科長は15人のうち1人、歴代総長には女性はいません。
こういうことを研究する学問が40年前に生まれました。女性学という学問です。のちにジェンダー研究と呼ばれるようになりました。
私が学生だったころ、女性学という学問はこの世にありませんでした。なかったから、作りました。
女性学は大学の外で生まれて、大学の中に参入しました。
4半世紀前、私が東京大学に赴任したとき、私は文学部で3人目の女性教員でした。そして女性学を教壇で教える立場に立ちました。
女性学を始めてみたら、世の中は解かれていない謎だらけでした。
どうして男は仕事で女は家事、って決まっているの?主婦ってなあに、何する人?
ナプキンやタンポンがなかった時代には、月経用品は何を使っていたの?日本の歴史に同性愛者はいたの?
...誰も調べたことがなかったから、先行研究というものがありません。ですから何をやってもその分野のパイオニア、第1人者になれたのです。
今日東京大学では、主婦の研究でも、少女マンガの研究でもセクシュアリティの研究でも学位がとれますが、
それは私たちが新しい分野に取り組んで、闘ってきたからです。
そして私を突き動かしてきたのは、あくことなき好奇心と、社会の不公正に対する怒りでした。
学問にもベンチャーがあります。衰退していく学問に対して、あたらしく勃興していく学問があります。
女性学はベンチャーでした。女性学にかぎらず、環境学、情報学、障害学などさまざまな新しい分野が生まれました。
時代の変化がそれを求めたからです。
言っておきますが、東京大学は変化と多様性に拓かれた大学です。わたしのような者を採用し、この場に立たせたことがその証です。

(BuzzFeed News『「がんばっても報われない社会が待っている」東大の入学式で語られたこと【全文】』)
https://www.buzzfeed.com/jp/saoriibuki/tokyo-uni