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日本語のことを語る

日本語の語順についての論考を拝見しながら、今日はそういう事を考えて良い日なんだなと思いました。長くなりますがお付き合いください。

  • 私が本を読む。
  • 本を私が読む。

(例文を「は」から「が」に変えたのには理由がありますが、それは長くなりますのでお許しを)
確かに日本語では、この2つの書き方があります。文章をどのように組み立てるかに応じて、これらは使い分けられます。このことを事実として受け入れて頂いて、わたしからは、それができるのはなぜかという話をドイツ語と英語の事例を使ってお話させていただければ、と思います。
実はドイツ語と日本語は、述語の位置を決めると基本的には語順はシャッフルできます。正確には、ネイティブはこうは言わないという語順も含めれば、文法的ではある語順がたくさんあります。上記は、ネイティブも使う2つの幸せなバリエーションです。
さてなぜシャッフルできるのか。実は日本語の名詞句(文節)やドイツ語の名詞句には、格(つまり主語要素だとか、目的語要素だとかいう)情報がすでに含まれているのです。だからどの順番ではじめても「誰が誰に何をしたか」がわかるのです。(ちなみにラテン語だと、動詞の位置もシャッフルの対象になります)
いわゆる、「てにをは」というやつが大事なのはそういうことです。あるいはドイツ語教師が「であですでむでん」と唱えさせるのもそのせいです。このあたりの格情報が文中で乱れると、語順はほとんど参考になりませんので、文が解読できないことになります。大事故です。
一方で英語には(人称代名詞を除くと)格情報が名詞句に明示化されることはありません。英語が得意な方は、「だからドイツ語の格変化なんてしゃらくさいもの、無駄だ」とおっしゃるわけですが、実は物事はもう少し複雑です。実は、英語は場所に格情報を載せているんです。英文読解の時間に、「SVOを振れ」と言われた方、それです。主語の場所、目的語の場所……というふうに場所で格が決まっているんですね。なので、語順を動かせない。動かすと大事故です。
では英語で無理やり語順をひっくり返したければどうするか、そこで出てくるのが受動態と強調構文です。あれは目的語にあたるものを無理やり前に持ってくる便利な構文なわけです。(「あれ、これ、日本語の『は』の機能に似てないか」と思った方には、天晴を差し上げましょう。)
ここまで、ドイツ語と日本語というシャッフル可能勢と英語というシャッフル不可能勢があること、そしてそれがそれぞれの言語の持つ(あるいは持たない)デバイスに依存することがご理解いただけたか、と思います。