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翻訳のことを語る

仕事で翻訳対象にsocial distancingという用語が登場したらクライアントに指示されていない限り「ソーシャルディスタンシング」とせず「一定の対人距離の確保」「人と一定の距離を取る」などとするようにしている。確かにこのsocialは、同一世帯で生活を共にしているのではない他者との関係性を含意しているのかもしれないので、明示的に訳語に反映したくなる気持ちも理解はできる。でも「社会的距離の確保」とすると、逆にまるで従来の対人距離は「社会的距離」ではなかったかまたは確保されていなかったかのようであり、いわば今回はじめて人と人の間に社会が生まれたかのような印象を与えかねないので適切ではない。「社交上の距離の確保」は朝お隣さんと出くわして挨拶を交わす時の距離を含むが、スーパーのレジ前に並んでいるときの距離を含まないので、これも適切ではない。同一世帯で生活を共にしている人と外出時に距離を取る必要がないことは普通わかるだろうから、socialの直訳にそれほど固執しないほうがよいのではないか。