ELPA ER-C57WR と RADIWOW R-108 の比較
ER-C57WR は ELPA こと朝日電器が日本市場向けに販売する小型のワールドバンドラジオです。長波や短波も含む所謂ラジオだけでなく、エアーバンド(航空無線の傍受)にも対応するなどの機能は RADIWOW R-108 とよく似ていて、本体の大きさやロッドアンテナの長さも同じくらいです。
また、分解した人たちによると(ELPA ER-C57WR(その5) « ミニーの独り言 (´○`)はぁ~、RADIWOW R-108(その2) : kerokeronyororoのblog)、機能の中心になる DSP チップはどちらも Si4734 ということなので、発売時期が C57WR は5年ほど早いとはいえ、基本的には同等の性能を持っているかと予想されます。
価格帯は ’57WR の方が古いだけ値下がりしているものの、どちらも5000円前後の近い所にあります。
ER-C57WR は吊るしのブリスターパックで販売されています。
前面が微妙に湾曲していて角度によって表情が付きます。
両機の違いはまず電源にあります。’108 の BL-5C 充電池と充電用 microUSB 端子に対して、’57WR は単三電池二本と 4.5V でJEITA統一端子の AC アダプタに対応。電池持続時間は ’108 が短波で15時間程度であるのに対して、’57WR は仕様表上で短波約50時間、中波だと70時間という、この手の DSP ラジオとしては比較的長時間の稼働が可能です。
スピーカーは ’108 が裏打ち感のあるしっかりした音を出すのに比べると、’57WR は軽めの印象で、特に FM を聞くとその違いが明らかです。これは ’108 が出色の出来なのであって ’57WR も変な音を出すわけではなく、この大きさでは十分合格点を与えられる水準です。
また、’57WR には ’108 のような操作時に入る雑音が無く、バンドの切り替えやスキャンもより速いようです。
AM 用のフィルタには聴感上で両機の違いが最も感じられます。’108 が 6/4/3/2/1kHz という五段階のフィルタを持っているのに対して、’57WR はワイド/ナロウという曖昧な表現の二段階のものを装備しています。
ここで AM(振幅変調)帯域幅とフィルタについて確認しておこう。所謂ラジオの AM 放送は、例えば中波のNHK第一(東京)なら 594kHz にその搬送波があり、その上下合わせて 9kHz 程度の幅の中に音声信号がある(この幅がステップ)。受信機ではフィルタを使って信号を漉し取るが、この幅から広く取ると高音域が伸び、狭くすると籠もった音になる。ただし広いほど隣接波による混信や雑音を受けやすくなり、狭くすると隣接波の影響を減らすことができる。
一般に DSP のデジタル処理によるフィルタは、例えば 3kHz といったらその範囲外の信号を「凸」のように急峻に大きく減衰させるという切れ味の良さがある。これに対して従来のアナログ方式は、「へ」のようになだらかな効果を持つ。
両機を並べてラジオ放送の音質や混信の具合を聴き比べてみると、’57WR はナロウでもかなり幅が広いように感じられます。また、'108 が幅を狭くするといかにもデジタル的な切り詰めた感じの音になるのに対して、’57WR のフィルタの特性はアナログ的であるようにも聞こえます。
’57WR は本体に表記されているように DSP と PLL シンセサイザーを併用していて、これは Si4734 がエアーバンドに対応していないのを補うためだと思われているようです。しかし聞こえ方から想像すれば、中波や短波(信号はこれら全て AM 方式)も PLL 回路で受けてフィルタまでの処理をし、それから DSP で音声化しているのではないかと考えられ、だとすると両機のフィルタの違いに納得がいきます。
いずれにせよ ’57WR はフィルタをナロウに入れても、特に中波では高音成分の遺残を感じる心地よい音に聞こえます。短波ではステップがより狭いため、混信を切る能力で ’108 が勝ります。これは決して ’57WR の感度が悪いわけではなく、条件が良ければ短波受信機としてもこの価格帯では十分な実力を発揮します。
以上のように両機は同じ DSP を中心とし類似した形態の受信機でありながら、味付けがかなり異なる製品であることが判りました。