ソニー ICF-306 AM/FM モノラル"純アナログ"最終世代ラジオ放送受信機
ICF-306 は2015年10月に発表された、新規設計ではおそらく最終世代となりそうな、操作・表示・処理が全てアナログのラジオ放送受信機です。外面がアナログでも内部は信号のデジタル処理(DSP)を行う機種が増えるなか、販売が続けられている本機について評価していきます。
本機の最大の特徴は、一般的な携帯ラジオを少し引き伸ばしたような設計で、ホームラジオよりは小さいという、中量級の大きさであることです。この大きさを中途半端とみるか、隙間を埋めるものととらえるかで、評価は変わってきそうです。
そもそもラジオの大きさが、スピーカーの径でいうと 5cm 前後と、8cm 前後から 10cm くらいの両極に収斂してきたのは、それなりに理由があります。前者は携帯性を重視し、後者は聞きやすい音質を求めた結果です。本機の 6.6cm というスピーカーが、携帯用としてはやや大きく、据置用としてはやや力不足であることは否めません。前向きに考えれば、据置向けよりは携帯性に優れ、携帯機よりは音が良いということです。
本機は非常に端正な顔貌で、黒一色では地味になりやすい所を、色気を持たせているのは流石のソニーです。
選局ダイヤルは携帯ラジオによくある埋没形で、幅を持たせているだけ力をかけやすいのですが、回転は少し緩すぎるように思われます。電源/バンド兼用スイッチとそろえた配置は、見栄えは良いものの誤操作を招くおそれが高く、外見を優先して操作性を損ねたように見えます。この辺りもソニーらしいとも言えますか‥。
背面に備えられた FM 用のロッドアンテナは、伸ばすと約 43cm の長さがあり、これは日本の従来の FM 放送帯 76〜90MHz の中央 84MHz の 1/8 波長にほぼ相当します。本体の幅が 19cm ほどあることからすると、この二倍の長さのアンテナも装備できそうですが、高感度で訴求するような商品でもないので、扱いやすさを優先したのでしょう。適度に剛性があって力のかけ方を間違えると曲がりそうな感じがなく、滑らかに伸縮できる点は、中国の新興企業に比べて一日の長を感じる所です。
ハンドルは軸の回転にやや硬さがあり、これを支えにして本体を斜めに立てることもできますが、使っているうちにこなれて緩くなるかもしれません。ハンドルを起こさなくても、その基部に指をかけて持ち上げることもしやすくなっているのはソニーの良い所が出ています。
外部電源端子が無いことからも、ホームラジオ的な使い方にはやや不安がありますが、電圧を反映する緑色の LED が付いているため、換え時をある程度予期することはできそうです。
本機の音質をスペクトログラムで見ていきます。スペクトログラムは Android アプリの Spectrogram により取得したものです。放送内容や計測条件によって見え方は変わるので参考としておきます。比較的静かな場所ですが環境音もいくらか入っています。
まず AM のスペクトログラムを見ると、音声の高域はおよそ 4kHz を越える辺りまでは濃く出ているようです。アナログ処理のため高域の減衰が緩やかであることも見て取れます。
FM は FM である割には高音が伸び切っていないように見えます。確かに聴感上も落ち着いた感じがあり、聞き疲れしにくい印象なので、ラジオの音としては悪いことではありません。
感度などの受信性能は、AM/FM とも地元局を聴くのに十分です。特に FM はアナログ機としては良く、最近のデジタル機とも比較になる印象です。
この"中途半端"な大きさの使い所は、個人的には枕元での使用に適しているではないかと思いました。圧迫感があったり寝たまま扱いにくいほどの大きさではなく、音の柔らかさや広がり方は寛ぐのに十分で、小さく絞っても声の輪郭が崩れない点も好感触です。