有名な山上憶良の「貧窮問答歌」の長歌に付された短歌一首。
原文:世間乎宇之等夜佐之等於母倍杼母飛立可袮都鳥尓之安良袮婆
訓読:よのなか‐を/うし‐と/やさし‐と/おもへ‐ど‐も/とび‐たち‐かね‐つ/とり‐に‐し/あら‐ね‐ば
解詞:世の中‐助詞(対象)/憂鬱‐助詞(左様)/苦痛‐助詞(左様)/思う‐助詞(逆接)‐助詞(並立)/飛ぶ‐立つ‐かねる‐助動(近接)/鳥‐助詞(着点)‐助詞(強意)/ある‐ない‐助動(条件)
意訳:世の中をウツだイヤだと思うけども、飛び立てもしない、鳥じゃあないもん。
「〜つ」は「〜ぬ」とはどう違うのか昔から色々議論がありながら、教科書だと「完了:つ、ぬ、り、たり」というふうに一括りにされてしまう成分。ここでは「近接」と付けましたが、単に「飛び立ちかねる」のではなく、そのように感じさせるような事態に直面している感じを出したものと考えておきます。他でもない「〜つ」が選ばれたことで、切迫した感じが表現されているのではないかと思います。
「やさし」は「やせる」と同源で、「痩せるような感じ」を言うのが基本で、恥じ入るような場合にも使い、さらに「憧れの人が親しく接してくれて照れる」ようなことを言うようになり、そこから「柔らかく接してくれるような性格や態度」を形容する「やさしい」になるというヒネクレたやつ。超転換!