RDR-TA0301 は幻の「DSP 版 ICF-306」なのか? 外観と性能を比較する

2024年3月、ソニー製ラジオが次々と終売になっていくのと入れ替わるように、突如「そっくりさん」が現れました。大分の企業「アールアイジャパン(Ri-JAPAN)」から発売された、ソニーの ICF-P27/ICF-P37/ICF-306 によく似た三つの製品で、「あきばお〜」に掲載された情報によればソニーのものと「同一工場・同金型にて製造」「意匠等、リーガルチェック済」ということになっている異例の「合法類似品」です。
今回このうちの一つ、ICF-306 とそっくりの RDR-TA0301(RDR-TA0301 BK)を入手したので、“本物”と比較していこうと思います。パナソニックは従来の純アナログ機を外見そのままで、内部をデジタル回路に置き換えた新機種を投入しましたが、ソニーはかなり遅くまでアナログ機の生産を続けた後、期待された後継機を発売せず品種を減らしました。TA0301 は幻となった「ICF-306 のデジタル化された後継機」なのでしょうか。
外箱では「使いやすくて高感度なラジオ」「DSP デジタル受信処理」が謳われています。


実際の本体は確かに ICF-306 とほぼ同じ形状ですが、表面処理などが安っぽくなっています。

スピーカーを覆う金網は TA0301 の方がテカテカとしています。周波数などの印字も ICF-306 が見易さを考慮した太さや色味の調整がされているのと比べて、0301 は「打ちっ放し」という感じです。


0301 はネジ穴の大きさが違っているほか、通気口の溝のような細かい所の成形精度がやや劣っています。また「DC5V」というモールドと、microUSB の穴を潰したような跡が見えます。おそらく OEM のオプションでは USB ケーブルからの給電に対応できるようになっているのでしょう。

電池室の内部では、ICF-306 にはある隔壁が 0301 では省かれています。

同じ金型に基いているとしても、より廉価に生産できるように加工されたものだと思われます。
ここからは性能の比較をしていきます。

比較はまず TECSUN PL-880 で受信して電波の強さを数値で確認し、次に TA0301 と ICF-306 をなるべく同じ場所に置いてアンテナの向きも揃えて受信しました。電波の強さが異なる複数の局で評価しました。
AM では、0301 と 306 両機の感度はだいたい同じくらいだと感じられました。ただし、PL-880 の表示で強度が 30dBμ を切って 20dBμ に近づくような電波では、306 は電波強度相応に聞きにくくなる程度であるのに対して、0301 は音量に制限がかかるようで実質的な感度が低下するのが感じられました。デジタルICの「ソフトミュート」が働くようです。
FM では、全般に 0301 の方が感度が高く、特に PL-880 で 30dBμ を超えるような局では雑音がより少なくなりました。ただし 20dBμ を切る電波では差は微妙でした。
いずれにしろ 0301 の性能は、一般的な地元局の受信では問題なく、良好とはいえるものの、とりたてて高感度というほどではなく、箱の売り文句は誇大だと思われます。
最後に音質を比較します。


AM では、306 はフィルタが広めで高域の伸びが感じられるのに対して、0301 はデジタル処理によるフィルタが狭めで高音に頭打ちの感じがかなりあります。306 は日曜日の朝に「音楽の泉」が愉しめる音質ですが、0301 は音楽的ではないかわりに隣接波の影響は少なく夜間の聴取ではより静かです。


FM はどちらも似た傾向のある音質ですが、306 の方が柔らかく丸みがあり、0301 は切れのいい感じです。アナログとデジタルの特性の違いはかなり明確に感じられます。なお 306 では 19kHz の高さにステレオ放送の識別信号が漏れてしまっているのが見えますが、この欠点は 0301 にはありません。
以上のように RDR-TA0301 は決して ICF-306 の「同等品」ではなく、またソニー製品のような品位の高さはないものの、価格(現在ヨドバシ・ドット・コムで2800円)を考えれば十二分といってよい価値はあるようです。数千円程度の中型機という点では、パナソニックの RF-U156 と競合になりますが、ソニーっぽいのが好きでかつ AM の高感度が必要なければこちらを選ぶことになるでしょう。