子供の頃はよく置いて帰られたよ、田んぼや畑だけど。
数キロの知っている道でも、子供の足には遠かった。
まして日暮れの早い時期は建物もないずっと田んぼの畦道は、いくら知っている道でも恐怖だった。
それも怖かったけど、なにより怖かったのは鬼のような形相の母に引きずられて蔵に閉じ込められることだった。
土蔵は、外壁と同じ土の観音開きの扉、その中に土の厚さ20センチ以上はある、今の私でも開け閉めに力のいる引き戸、その中の更に15センチほどのやっぱり重たい木の引き戸。
いちばん外の扉を閉めなくても、引き戸二枚が閉じられると、土蔵の中はどこからも明かりが入ることのない真っ暗闇で、土の壁は外からの音を遮断し、自分の鳴き声さえ吸い込まれる静まり返った場所だった。
泣きすぎて呼吸ができなくなって引き付けをおこしたようになり、頭が割れるように痛くなった。
今思えば、あれ過呼吸だわね。
そこが始まりか。
じゃあ、ずいぶん長いな。ベテランかえ、私は。
