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おこもりのおばちゃまよのことを語る

おばちゃまも本が処分できなくてね、実家の六畳の子供部屋にはそうそう大きな本棚は置けなかったから、入りきらない本は段ボール箱に入れてね押し入れに積み上げていったの。
その中には、買い与えられたもの一度も開かなかった百科事典2セットに(えてして本好きは買い与えられた百科事典なんか読みやしませんわね)、おばちゃまのおばちゃまがお嫁に行く前に買ってそのまま置いていった世界文学全集なんかもあったのよ。
こちらは充実したセレクトで、イプセンとかポーもあってね、大人になるまでずいぶんと楽しませてもらったわ・・・あら、話が逸れたわね。
その百科事典2セットに文学全集も押し入れに入れていたわ。
それでもって成長するにしたがってバイト代やらなにやらで自由に本が買えるようになると、加速的に本の量は増えていったの。
そのうち押し入れの下団は全部段ボールに占拠されてしまったわ。それでね、ある時奥の本を出そうと手前の段ボールに体重をかけてうんっと手を伸ばした瞬間に、とうとうそれが起きてしまったのよ。
めりめりって音がしてね、押し入れの下段の床が抜けたわ。
ううん、実際には下段の段ボールが傾いたくらいだったんだけどね。考えてみたら、あんなベニヤの板の上に何百キロ単位なんかで物を置いていいわけがなかったのよね。
おばちゃまは本を読まない母親にはこっぴどく怒られたけど、父親は本を読むひとだったから、あきれていたけど黙って修理の大工さんを呼んで補強してくれたわ。
でもねこれでおばちゃまは一部屋の許容量には限度があるって学んだの。
でもまだ甘く見ていたわ。本で死ぬなら本望だ!なんて言ってね。
ところがね、長い時間がたってそんな記憶も薄れた数年前、松本市近隣で起きた震度6の地震でね、ひとりだけが亡くなった方がおられたの。その原因は部屋中にあった本による圧死でね・・・・・。
今は狭い賃貸暮らしだから、ずいぶん本は処分して小さな本棚に入るだけって決めたのに、いつしかまた押し入れには本の入った段ボールが置かれ、半年前には花瓶を買いに入ったインテリアショップで大きな組み立て本棚を買って帰ってしまったのよ。
おばちゃまボケが始まったのかしらね、困ったわ。