男は匣(はこ)を持っている
大層大事そうに膝に乗せている
時折、匣に話しかけたりする
何とも手頃な善い匣である
「誰にも云わないでくださいまし」
男はそう云うと匣の蓋を持ち上げ、こちらに向けて中を見せた
匣の中には綺麗な娘がぴったり入っていた
日本人形のような顔の娘が、胸から上だけ匣に入っていた
何ともあどけない顔なので、つい微笑んでしまった
それを見ると匣の娘も
にっこり笑って
「ほう、」
と云った
ああ、生きている・・・
何だか酷く男が羨ましくなった・・・
(京極夏彦『魍魎の匣』)
箱に入れて取っておきたい物のことを語る