ほぼ満員の車両、ドアが締まり始めたタイミングで男女二人連れがホームから乗り込もうとする。先行する男性がドアに挟まれ、テレビから這い出た貞子女史のような体裁で、あ、う、と1秒ほど呻いた後、再びドアが開いた。男性はするりと車内に乗り込むが、ほぼ満員の車両なので、もう一人分のスペースを確保する前にまたドアが閉じた。外側に取り残された連れの女性は口に微かな笑みを湛えて、少し切ないような目で、自動ドアのガラス越しに連れの男性の顔を見つめていた。内側のドア脇に背中を預けていた別の女性客が、あら乗れない、乗れないわ、あらあら、などと口走る。ホームでドアに張り付いている客を見兼ねてか、車掌が三度ドアを開いた。やや恥ずかしそうにして車両に入って来た連れの女性に男性が話しかける。「乗れた、乗れた、こんな、ギリギリで電車乗ったの俺はじめて、フフ」あらあら。二人を乗せて電車は走り出す。早々にホームで次の電車を待つという英断を下していた男性客が、横滑りする二人をじっと見ていた。
電車内にてのことを語る