有楽町で映画を見終えた私は、台風一過の晴天に誘われるがままに皇居のお堀で白い鳥とたわむれ、日比谷公園で見つけた足の長い鳥をずしょさんの鳥関連に挙げるために写真に納めた訳ですが、日比谷公園で足の長い奴をスマートホンで追いかける最中、ふいに背後から声をかけられたのでした。
後ろを振り返ると、声の主は行楽中と思しき年配の女性四人組のうちの一人でした。女性はこちらの返事を待たずにiPad miniを差し出し、残りの三名は私がへどもどする間に池の前で万全のフォーメーションを形成しつつありました。
思いがけず訪れた「富嶽百景」チャンスを前にして、背後の鳥の彫像に焦点を絞ってやろうかしらというアイデアが頭にもたげるのも当然の事かと思いますが、私にはそれが酷く魅力的な思い付きに思えてなりませんでした。
しかしながらiPad miniのカメラ性能が殊のほか素晴らしかったために、液晶の中では銀座界隈までおしゃれをして繰り出して来た女性らの笑顔にピタリとピントが当たっており、それはそれでとてもよい写真に思えて、思わずシャッターを三、四回タップしてやったのでした。
iPadを受け取り口々に礼をのべて去って行く行楽客を眺めながら、ふと、今の時代に太宰治がいたなら、ということを考えました。もし今の時代に太宰治がいて行楽客に撮影を依頼されたら、写真を撮るふりをしながらロック画面のパスコードを変えるなりして、iPad miniを返すのではなかろうか。そんな考えが頭によぎりました。私にはそれが酷く魅力的な思い付きに思えてなりませんでした。
残業(トナカイ)のことを語る