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電車内にてのことを語る

日暮里駅での線路への人立ち入りのため大幅に遅れて到着した山手線がミッドナイトミートトレインよろしくスパムのような混雑具合で出発するのを尻目に、0時38分およそ定刻通りに有楽町を出発したはずの京浜東北線赤羽行き最終電車は、神田駅で遅れている中央線の乗り換え客を待ち、秋葉原駅で遅れている総武線の乗り換え客を待ち、上野駅で25時を迎えた。スパム缶ほどとは言わないまでも、車内は強かに混み合っている。七人がけの中央で心配になるほど大きなイビキをかき続ける男の隣、つり革に掴まる関西弁のニットキャップマンとシートに座る精悍な風貌のスーツ男が口論を始めた。あるいは、少し前からすでに言い争いが続いていたのかもしれないが、イビキのせいで聞こえては来なかった。スーツ男は「お前が説明しろ」と繰り返し、ニットキャップマンは「ほな、次降りよ」と繰り返す。意味は分からないが、スーツ男は憤り、ニットキャップは煽っている。ように見えた。そうしたやり取りが二駅ほど続き、恐らく煽り飽きたニットキャップマンが態度を急転させて謝罪、スーツ男を飲みに誘うというよくわからない形で痴話喧嘩は終幕した。ちょうどスーツ男の奥に空いた席に身を忍び込ませたニットキャップマンが二つ三つ空寒い世間話を持ちかけたが、スーツ男は飲みの誘いを断り、結局気まずさを払拭できないまま二人は各々の携帯端末に逃げ込んだようだった。はたと気がつくと大イビキの男のイビキが止まっており、これはこれで心配になった。