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勝手に引用のことを語る

マロワンは物置に鍵をかけ、靴底で砂利を踏みしめながら歩き出し、切り通しの急坂をのぼって行った。並んで建つ三軒の家の煙突からは、朝日に照らされてバラ色に染まった煙が出ていた。窓の下は、いずれの家も白い建築用石材が使われている。振り返ると一艘のトロール漁船が、引き潮の力だけで動いているかのように、タグボートの曳航を受けることもなく、音も立てずに出港していくところだった。
ジョルジュ・シムノン『倫敦から来た男』