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身体の些細な不具合のことを語る

【私とガングリオン】

私とガングリオンとは、整体の仕事を始めて以来、もう長い付き合いになる。
オカルトガングリオンという厨二カッチョイイ名前だが、普通のガングリオンと違って神経や腱を圧迫するのでなかなか痛い。
初めてできた場所は左の手首関節に近い甲だ。
数か月に一度、その当時の住居に近い整形外科で穿刺してもらっていたが、ものの1mm程度の透明なゼリーが出てくるだけで、たちまち楽になるのだった。
小さく表面からではわからないため、毎回「今回は抜けないかもしれません」と言われながら抜いてもらっていた。

さて、約1年、整体を離れていた間は、ガングリオンが育つこともなく平穏な手首であった。
しかし整体を再開すると程なくしてまた同じ位置で徐々に大きくなり痛みを増していった。
その当時はスタッフの多い店で働いており、その中に鍼灸師の卵がいた。
私のガングリオンに興味を持った彼は、どういうものか触診させて欲しいと頼んできた。
もちろん断るものではない。私たちには練習が必要だが、初めての技をお客様相手に練習するわけにはいかない。
ガングリオンは整体でどうにかするものではないが、彼は鍼灸師となるべく勉強中の学生だ。少しばかり実験台になることにためらいはなかった。
彼は小一時間私のガングリオンをグリグリと揉みしだき、ついには跡形もなく消し去ってしまった。
と、その時は思っていた。今日まで思っていた。

数年の間、あの痛みを感じることなく生活していたが、1年ほど前だろうか、ついにオカルトガングリオンが再発してしまった。
まあ、昔のように1日に5人以上施術するわけでなし、なんとかごまかしやり過ごしていた。
しかし、今度のガングリオンは以前のものよりより手首の関節に近いところに発現した。圧迫される腱の規模が違う。
手首を曲げる度にどこかを損傷しているような痛みに耐えかね、本日、現在の住まいに近い整形外科を訪ねたのであった。

ガングリオンらしきものができていると訴えるも、医師は触診で探し当てることができず、一応穿刺してみようということにはなったが1度目の施術では何も吸い上げられず、「本当にガングリオンかねえ?」と首を傾げられる始末であった。
「自分で触ってみて」と言われて私が指を当てたところを目印に、もう1度グニグニと穿刺。するとどうか。固めのゼリー状のものがずぶずぶと吸い上げられた。
「完全に腱の下に潜り込んでいましたね」

そう。以前鍼灸師の卵が「潰した」と思っていたものは、実際にはさらに皮膚から遠いところに潜り込んだだけだったのである。

その鍼灸師の卵が治療するであろう患者さん相手であれば失敗は許されないが、練習台の私相手なら勉強のうちだ。
だが、あれから4年も経って判明したこの事実を、彼に伝える術はないのである。