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イギリスという国の偉大さのことを語る

開高健は遺筆『珠玉』の冒頭で、ロンドンで忘れられないことを三つの一つとして
フィッシュ・アンド・チップスを挙げています。その部分を引用します。
 
料理といえるほどのものではない。(..)東京で知り合ったイギリス人から——この人はケンブリッジ出身だったが——あれは新聞紙に秘密があってエロ新聞に包んでもらうといつまでもホカホカと温かいけれど、『タイムズ』なんかだとたちまちさめてしまうというんです、というジョークを聞かされたことがある。シンプソンのローストビーフも食べたはずなのに肉も皿も思い出すことができず、こんなフィッシュンチップスの一包みが生きのこって、いつまでも忘れられない。歩道の人ごみを縫って歩きながらひときれずつつまみ食いしていると、雨がポツポツ沁みて新聞紙の活字がぼやけていったことや、酢が赤かったことや、くずれた白身がいいにおいと湯気をたてていたことなどが、ありありと思いだせるのである。