ある国を詩人と古典物理学者と数学者と量子物理学者と哲学者と羊飼いと生物学者が一緒に電車で旅行していた。
すると、窓から牧場が見え、そこには1匹の黒い毛の羊がいた。
詩人:この国の羊の毛は黒いんですね。
古典物理学者:いえ、この国には
黒い毛の羊が少なくとも1匹いる
ということしかわかりません。
数学者:いえ、この国には
身体の少なくとも片側の毛が黒い羊が少なくとも1匹いる
ということしかわかりません。
量子物理学者:いえ、観測から時間tの経過した現在、この国には
身体の少なくとも片側の毛が黒い羊が少なくとも1匹いる
という事象すら不確定です。
哲学者:いえ、記憶の中に存在する
あの黒い羊が本当に実在したものだったかどうかすら
確かではありません。
確実なのは、「そう考える私がいる」ということだけです。
羊飼い:たぶんジャコブ(Jacob)種の子供じゃないかな。
古代種の血をひく希少羊で、白と茶のパッチワークのような毛に
包まれているんだ。子供は真っ黒だよ。
生物学者:じゃあ確認してくる。
生物学者はそう言い残して車窓から飛び降りた。