歴史の初期の段階では、人間は事故を周囲の環境と区別していない。動物界・河川・山脈・森、もろもろの自然現象は、まるで人間と「対等」であるかのように存在している。(中略)人間以外のすべての動くもの、ざわめく音をたてるものもまた、人間の空想の中で、自分の意志によって行動することができ、感ずることができるのである。生き物の絵とか、かげとか、その一部分――たとえば、抜け落ちた毛でも――とかはその生き物そのもののかわりになることができ、そうしたもので示されているもとの生きものへの必要な効果を及ぼす手段となり得るのだ。ヘラジカがほしい、それなら、岩にその絵を描け、そして「殺せ」、それ以上のことは、いうなれば単なる技術の問題なのだ。
В.А.トゥゴルコフ/著, 加藤 九祚/解説, 斎藤 晨二/訳 『トナカイに乗った狩人たち 北方ツングース民族誌』刀水書房、1981年、p161