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バレエのことを語る

12日、公演初日のザハロワとボッレのジゼル第二幕を見ていて、あらためてこれは、オルフェとユーリディスであり、伊奘諾伊邪那美であり、人魚姫であり、牡丹灯籠であり、フェリーニの『道』でもあり、また、個と集合的無意識であり、中有前後の死後の魂の話でもあるなあと思っていました。あと、動きが一部、キョンシーなのは、ここから取ったのかなぁ、とか。

そして、これまで見ていたジゼル第二幕では、アルブレヒトが何をミルタに願っているのか、はっきりわからなかったのですが、今回、ボッレが、あの羽ばたくように踊るシーンでわかりました。

死んでもいいから、貴女たちのように、ほら、宙に浮くように踊るから、わたしもジゼルと共に連れて行ってください。

そういうことなのではないでしょうか。でもアルブレヒトの宙に浮く原理は王子として健やかに育った筋肉によるもので、すでに肉体を失って筋肉も何もないウィリたちが宙を漂っているのとは、違うのです。

だから、たとえアルブレヒトの願いが、「わたしがわたしでいられる間に」と懸命なジゼルを通じて、集合的無意識をまとめているミルタに届いたとしても、拒絶するしかない。踊り狂わせて殺したとしても、仏教の地獄の種類分けのように、ウィリたちとは死んだ原因が違うから、連れて行くわけにはいかない。

ところで、今回ステージが近かったので、いまさら気づいたこともう一つ。ウィリたちが踊るとき、客席を向いているのに、全員、観客や周囲を見ていないように踊っているのは、考えてみればものすごいテクニック。実際はコール・ドはきっちり振りを合わせるためにまわりを見ているはずなのに。

さて、そんな風にいろいろ思わせるザハロワとボッレに負けてなかったのがヒラリオン役の森川茉央! こんないい奴が死んじゃうなんて不条理だ、と思うくらいにリアルな演技でした。二股がバレてみっともないアルブレヒトに一緒に憤る気持ちをこんなにも引き出させる、狂言回しに終わらない「生きてる」ヒラリオンを見たのは初めてです。