オールスター・バレエ・ガラ、最終日のBプロでした。ラフマニノフの「ラプソディ」にアシュトン振付を、フェリとコルネホの二人で幕開け。2007年に引退、したと思ったら2013年に50歳で復帰、今年53歳のフェリを見ると、年齢って、なんだろうと思えてきます。
特にAプロでのジュリエットは、引退前と変わらず、いやむしろ初恋で暴走する乙女心の表現はさらに研ぎ澄まされて、純粋ゆえの怖さに、ロミオが宥めすかしているように見えるほど。
そして次はアナニアシヴィリとゴメスの「白鳥の湖」第二幕のアダージョ。Aプロでおそるべき「ジゼル」を踊った二人のこれもまた、素晴らしいものでした。アナニアシヴィリ、はっきり言うとプロポーション的には胴体側面が年齢なりにもたついてきているのですが、それでも素晴らしい。「ジゼル」でもそうだったのですが、速く踊ってしまえばごまかせるような箇所も、バランスと美の完璧さを見せつけるかのように、ややゆっくりと踊っているように感じました。
次は曲も衣装もフラメンコっぽい"Fragments of one's biography"をロパートキナとエルマコフで。ロパートキナはAプロのカルメンに続き、強そうな女性を楽しそうに踊ります。
このあたりで完璧ならざる人間の身に、完璧なものばかり見せられてきて、脳の処理がオーバーフローし始めていましたが、次のザハロワとロブーヒンの「ジゼル」で脳の処理速度が追いついてきました。
というのも、ジゼル登場の最初のジャンプのあとの着地の足音に、現実に引き戻されたから。助走をつけてのジャンプでもなく、両脚での着地なのに、それなの? と。その後、ロブーヒンもけっこう足音が。顔やプロポーションで言えば、アナニアシヴィリよりザハロワの方が好みなのですが、「ジゼル」対決ではAプロのアナニアシヴィリとゴメスが構成含め数段、上でした。
アナニアシヴィリは体の動きに沿って動く衣装の動きまでも支配しているかのよう。そしてジゼルとしての自意識が、ウィリという集合的無意識に飲み込まれるのをなんとかおしとどめている感じ。そして二人ともとにかく足音がしない!
ザハロワのジゼルは、まだジゼルという個人でした。個人としての意識があるままのアルブレヒトとの永遠の別れと、集合的無意識に飲み込まれながら、自他の境が曖昧になりながらの別れとでは、どちらがつらいだろう、などと考えてしまいました。
ただ、わたしのなかではジゼルはアルブレヒトを助けたことで、煉獄としての集合的無意識への融合は免れてキリスト教の天国に、仏教なら輪廻の輪の一段上で菩薩の位に行くんじゃないかという気持ちはあります。
第一部最後はポリーナ・セミオノワ以前の巨乳プリンシパルならこの人、のジリアン・マーフィーとマチアス・エイマンで「リーズの結婚」のパ・ド・ドウ。夫の人に言われて気づいたのですが、Aプロのチャイコフスキー・パ・ド・ドウでもあったように、マーフィーは他のダンサーが区切って踊るところを、ひとつながりにやわらかく踊るのが面白い。ひとつながりにするためには、区切りと区切りのあいだを自分で考えて踊って埋めなければならないのですが、その苦労がまったく見えず、軽々と踊っているのには驚嘆します。エイマンのテクニックと華も素晴らしく、衣装もかわいらしく、休憩前がこれでよかった!
第二部はコンテンポラリー多め。初っ端からロパートキナとエルマコフでバッハにのせて「プレリュード」。幕が上がった瞬間、ステージ中央奥にドレスの裾を広げ、その上に両腕を伸ばして屈んでいる美しい物体に目が吸い寄せられます。ロパートキナは、踊り始める前からいつもそのスタイルが出来上がっていて、その完璧な美しさから目を逸らすことができません。
次はガーシュインの曲にバランシン振付で「フー・ケアーズ?」より「君を抱いて」をマーフィーとエイマンで。ニューヨークっぽい背景を前に、ミュージカル映画のようなパキパキした振付が決まりまくります。
お次はザハロワとロブーヒンで「ディスタント・クライズ」。ザハロワのコンテンポラリーをもっと見たい! と思う演目でした。
そして日本初披露のグルジアの民族舞踊をもとにした「レクリ」をアナニアシヴィリが踊り、会場が沸いたところに、フェリとコルネホの「ル・パルク」。世界バレエフェスティバルでフェリやほかのダンサーで見てはいましたが、今日のこれは素晴らしかった。ほかのダンサーが振付をなぞって、でも振付家の筆跡が透けてみえるようなところを、フェリは完全に自分のものにして踊っている。それも以前に見たときよりさらに「彼女のもの」にして。53歳にして、まだ進化し続けるフェリの凄さに鳥肌が立ちました。
さて、トリはカッサンドラ・トレナリーとゴメスで「眠りの森の美女」よりパ・ド・ドウ。トレナリーの髪型が、ディズニーの眠り姫の前髪部分と、ディズニーのシンデレラのヘアスタイルのようなのがキュート。いや、順序は逆で、ディズニーがクラシックバレエのあれこれを参照したのだとは思いますが。ゴメスも相変わらず素晴らしく、二人でフィッシュダイブが何回もあるパ・ド・ドウを軽やかに完璧に決めて行くのでした。