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ホリィ(新人)のことを語る

『阿波からの室町将軍』読み終わりました。義栄に先立たれた義冬が、中風を患い不自由な身体で柩を抱きながら、輿に乗って平島に帰る描写が涙を誘います。
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日ごとに京畿と往来する船の出入りににぎわう古津の港も、念願成就した喜びも束の間にして、柩に入って阿波御所に帰る室町第十四代将軍足利義栄の喪に服して、この日は静穏に霊柩の船を迎えた。
三十余年前に足利義冬が乗る五艘の船を迎えた時の好奇の民衆の目ではなく、阿波御所の留守を守った湯浅兼綱らの老臣、家司たちの目にも、その後ろに控えて迎える近隣の村の大人、肝煎りたちの目にも、無常を憂える悲哀の涙があった。
(中略)
阿波御所の足利義冬、義栄父子の征夷大将軍、大樹への妄執が実現された喜びの短い月日が、川の流れの泡沫のように、時の流れの中にはかなく消えた。
義冬が消すことなく伝えた埋火の熱が子の義栄に一炊の夢を与えた。
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義栄が最期を迎えた時期と場所は、永禄11年9月30日摂津富田、10月20日撫養の主に二説ありますが、小説では平島の史料に沿って後者を採っていました。
古津の八幡神社には義冬奉納の石灯籠があるそうなので、いずれ再訪したいです。