ちなみに谷口克広氏『信長と将軍義昭』では藤田達生氏が説く幕府の二重体制や「鞆幕府」と「安土幕府」の分立が懐疑的な論調で取り上げられていましたが、藤田氏は鞆幕府を評価する一方で信長政権のことも初めて全国統一を志向した政権と評価されているようで、興味深いです。
藤田達生『天下統一 - 信長と秀吉が成し遂げた「革命」』
神田氏は「天下布武」を掲げる信長の登場以前、16世紀後半の幕府が衰微した時代に既に「天下人」の観念が存在していたのではないか、とも述べていて、おそらく幕府の併存という考え方は取らず、将軍義昭の追放後は信長が朝廷と直接の結び付きを強めるとともに、次第に将軍に代わる「天下人」と認められる存在に成長したと捉えているのでしょう。
僕としてはその先駆者として三好長慶の名が出てこないのが不思議でならなかったのですが、読者にその可能性を示唆するに留めておいたのは氏の謙虚さの表れなのかなぁと。